~知っておきたい子供の病気~
お子さんの皮膚に赤い発疹が出るとアトピー性皮膚炎でないか、 また食物アレルギーではないかと心配されて来院される方が多いですが、 今回はこの2つの病気を説明します。
アトピーの意味は不思議な、奇妙なという意味ですが、 いろいろな皮膚の症状があらわれるためこのような名前がつけられたものと思われます。 アトピー性皮膚炎は、慢性の経過(乳児では2ヶ月以上、幼児以上は6ヶ月以上)を示す、 かゆみを伴う湿疹性の病変(赤いぶつぶつや、赤い斑状のもの等)をもち、 年齢により特徴があることから診断されます。 すなわち、乳児では頭や顔に始まり、しばしば体や四肢に下降する、 幼小児期では頚部や、膝や肘の内側に病変が多いのが特徴です。
また耳切れはアトピー性皮膚炎の一症状と言われています。 家族で同様の病気があることや、他のアレルギー性疾患があることも診断の参考にされます。 すなわち、痒い湿疹がある程度の期間、良くなったり悪くなったりすることが、 診断の第一条件であり、ある程度経過を観察しないとアトピー性皮膚炎の診断は出来ません。 また、かぶれ等の接触性皮膚炎等他の疾患を除外することも重要です。
アトピー性皮膚炎と診断されると、すぐに食べ物との関係を気にされる方が多いですが、 後で述べる食物アレルギーとは本質的には異なる病気です(もちろん両者を合併することはあり得ます)。
アトピー性皮膚炎は
(1)刺激に過敏な体質のあるものが、
(2)皮膚のバリアー機能が低下してかさかさの皮膚となり、
(3)それになんらかの刺激が加わり、
(4)皮膚に炎症を起こしたものです。
それでは、治療法を(1)~(4)の原因別に考えてみましょう。
まず(1)の刺激に過敏な体質ですが、生まれもった体質を変えることはなかなか困難です。 症状がひどい場合には、抗アレルギー剤(セルテクト、ゼスラン等)や かゆみが強い場合には抗ヒスタミン剤(ポララミン、アタラックス)を使用することがあります。
(2)皮膚のバリア機能とは、健康な皮膚は外からの刺激と異物の侵入を防ぐため、 皮膚の表面にはタンパク質で出来た角質層とさらに皮脂の膜でおおわれています。 アトピー性皮膚炎では、この皮脂膜が取れ、角質層も痛んでカサカサした皮膚になっています。 これは体質的に毛穴にある皮脂腺から分泌される皮脂の分泌が少ないためです。 そのため、アトピー性皮膚炎では、皮膚のバリアー機能が低下し、 種々の刺激を受けて皮膚に炎症を起こしやすい状態になっているのです。 そこで、かさかさ皮膚をなくすことが、アトピー性皮膚炎をひどくしない、 また良くなった時に再発させない基本となります。 このため、保湿剤(ヒルドイドローション&ソフト、ザーネ、プロペト等)の使用は非常に重要です。
(3)なんらかの刺激とは、個々で異なりますが、一般的に汗やよごれ、細菌は刺激の原因となりますので、 お風呂ではせっけんを使用しよく洗うことが重要です。 その際、強くごしごし洗うのは厳禁です。 また、せっけんはお湯で良く落として下さい。 熱いお風呂は、かゆみの原因になりますので、ぬるめのお風呂にさっと入れて下さい。 衣服では、特に下着はちくちくしない木綿のものが良いでしょう。
(4)アトピー性皮膚炎は皮膚に炎症が起きているわけですので、 薬はこの炎症を抑える軟こうを使用します。 ステロイドホルモン剤の軟こうを使用するのが基本です。 病状や、場所により適切な強さのステロイド軟こうを処方します。 ステロイドホルモン剤と言うと、その副作用をひどく心配される方がいますが、 医師の指導のもとに使用すれば、その心配はありませんので、御安心下さい。 逆に、勝手に薬をやめたり、自己判断で使用するのはやめましょう。 また、アトピー性皮膚炎には種々の治療法がマスコミで取り上げられたり、 売り出されています(これをアトピービジネスと呼んでいます)。 全てがダメとは言えませんが、逆効果のものも少なくありませんので十分御注意下さい。
食物アレルギーは、ある特定の食物を食べた後、 通常30分以内に発疹(蕁麻疹や発赤、赤いぶつぶつ)が出現するもので、 ひどい場合にはショック(血圧低下、顔面蒼白、嘔吐、呼吸困難等)をひきおこすこともあります。 また、アトピー性皮膚炎が悪化する等、 すでにある発疹が食物で悪化する場合も食物アレルギーの関与が考えられます。
また、遅発型(24時間以内に起こってくるタイプ)や 特定の食物摂取後に運動した時のみ起こってくる(食物依存性運動誘発アナフィラキシー) 特殊なタイプもあります。乳幼児に多い食物アレルギーの原因食物は、卵(特に卵白)、牛乳、 大豆、小麦です。 乳幼児では少ないですが、ピーナッツ、そばアレルギーは時に重い症状が出ることがあります。 また、野菜、果物も食物アレルギーの原因となることがあり、この場合は口腔アレルギー症候群と言い、 口腔内の異常を訴えることが多いと言われています。 ちなみに成人では魚介類、海老、かになどの食物アレルギーが多くなります。
食物アレルギーの診断は、問診(特定の食物摂取と発疹の出現)により可能ですが、 場合により血液検査で確認することもあります。 逆に血液検査(IgERAST,アイジーイー・ラスト)で 特定の食物が陽性に出ても今まで食べていて問題がなければ心配ありません。 症状がひどい場合は食物負荷試験(特定の食物を与えて症状の出現の有無を見る)や 食物除去試験(負荷試験で陽性の場合、その食物を除去した食べ物を与えて症状が出ないかを見る)が 必要となる場合もありますが、これはショック等の出現に備えて入院の上、注意深く行う必要があリます。
食物アレルギーの治療は、原因となる食物を食べない事につきますが、 卵や牛乳アレルギーは成長につれてよくなり、 小学生になるころには消失することが多いので、 医師に相談して下さい。前述のピーナッツ、そばアレルギー等でひどい症状が出る方は、 その食物の不摂取を続けます。 卵アレルギーでも、卵白のみダメな方と卵の加工食品全てがダメな方がいます。 食物アレルギーで特定の食物をとれなくても代理の食物がありますので相談して下さい。 また、インタールという飲み薬を食前に服用することで食物アレルギーを抑える方法もあります。 もし前述のショックの症状(血圧低下、顔面蒼白、嘔吐、呼吸困難等)が起こった時は、 迅速な処置が必要ですので、迷わずすぐに救急車を呼び、病院にて手当てを受けて下さい。